東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1455号 判決 1969年3月31日
控訴人 山下哲司こと 車在源
右訴訟代理人弁護士 竹下甫
同 山田伸男
被控訴人 破産者双葉工業株式会社破産管財人 小石幸一
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
<以下省略>
理由
破産会社が被控訴人主張のとおり破産の宣告を受け、被控訴人がその破産管財人に選任されたこと、被控訴人主張の本件手形が破産会社の代表取締役であった鎌江良二から控訴人に交付されたことは当事者間に争いない。
被控訴人は右交付は破産会社の財産である手形を控訴人に譲渡したもので否認権の対象になる行為である旨主張し、控訴人は破産会社の債務の弁済のために破産会社の代理人として交付を受け、既存債務の弁済に充てたもので右手形の授受は破産会社内部のものであるから否認権の対象となる行為ではない旨主張するのでその点について判断する。
<証拠>を綜合すると、
控訴人は自ら又は妻花子の名義で金融業を営んでおり破産会社に自己の名義又は妻、友人の名義で手形割引による融資を行っていたところ破産会社が昭和四十年四月頃には既に債務超過になり資金繰りが困難になっていたことを知りながら鎌江良二が同年五月十九日本件手形を入手するや当時破産会社の資金面を担当していたのを幸い良二の兄弟やその他一部特定の債権者の債務の弁済に充当するからと称して良二から本件手形の交付を受けたこと、良二は破産会社の代表者として当時破産会社が債務超過で資金繰りに苦しんでいることを知りながら控訴人に資金面をまかせていたところから控訴人の言うままに自己の兄弟や一部特定の債権者の利益のためにする意図の下に本件手形の処分権を控訴人に一任して白地裏書(譲受人欄白地)のまま控訴人に交付したこと、控訴人は即日本件手形を同じ金融業者である佐藤俊一郎に割引方を依頼して交付し現金を入手したことを認めることができ、前記各証拠中右認定に反する部分は採用しない。右認定を覆すに足る証拠はない。
以上の認定事実からすると本件手形は鎌江良二から控訴人に譲渡されたものとは解し難いが手形の処分権を一任して交付したものであり、右交付行為は単に破産会社の内部における事務上の手形の授受とは異なり、破産会社の財産の減少行為として否認権の対象となる行為と解するのが相当であり、前認定の事情の下になされた右交付行為は破産者及び交付を受けた控訴人共に破産会社の財産の減少を来し、一般債権者を害することを知りながら敢てなされたもので破産法第七十二条第一号に該当する行為と解するのが相当である。右交付が破産会社の既存債務の弁済のためになされたとしても又控訴人主張のように現実に既存債務の支払に充てられたとしても本件においては前記判断には影響ないものと考える。
ところで本件手形は前認定のように控訴人から佐藤俊一郎に割引のため交付され、既に決裁されていることは<証拠>によって明らかである。そうだとすると控訴人は被控訴人の否認権行使の結果右手形の返還に代えて右手形金額及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが裁判所に明らかな昭和四十一年六月二十二日以降支払済まで年五分の遅延損害金を支払う義務あるものというべく、右と同旨で被控訴人の右請求を認容した原判決は相当である<以下省略>。